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藁の家(ストローベイルハウス)
藁の家(ストローベイルハウス)
「藁の家」プロジェクトのその後…
「藁の家」プロジェクトのその後…
「藁の家」プロジェクトのその後…
フランスから帰ってきて数週間たったある日、後藤君から「相談があるのですが…」との電話があり、深夜営業のカフェで落ち合うことになりました。

「実はもう一度フランスに行こうかと思っているのです。」…やっぱり、そうきたか。だいたい予想はついていたので、特に驚きはしませんでした。フランスで仕事をしている間も「また来たい」とか「本当に来ちゃおうかな」とか、毎日のように言っていたので「なるようにしてなった」と言う感じがします。

僕たちとしても携わった建物のその後は気になるので、身内の人間が継続して関わっていくことになったのは何となく嬉しい気持ちです。
後藤君の紹介
藁の家 ストローベイルハウスここで後藤君のことを簡単に紹介させていただきます。後藤譲君は正式には四季の家工房のスタッフではありません。

彼が一番エネルギーを注いでいることは、現代美術の造形作品を創ることです。そして、その作品づくりの主な材料は木です。作る対象は違いますが、木を切ったり削ったりして物を作ることは僕たちの仕事と共通する所があります。

要するに「木をいじるのが好き」と言う点では似た者同士なのです。これまでも手が足りない時には助っ人として手伝ってもらっていて、通算すると1年以上建築現場で大工仕事を経験しています。

本職の大工ではないのですが、木と刃物の性質は良くわかっているので、手元にいてくれるとありがたい存在でした。「おっちょこちょい」なのと「のんき」なのはご愛嬌ですが、暑さ寒さを厭わずコツコツ作業するタイプの男です。

以下は後藤君のレポートです。
後藤記
10月31日
日本から出発し飛行機に乗ること11時間半…1人で海外に行くのは実は今回が初めてだったのです。空港に着き、とりあえずフィリップさんに電話をしてみると、やはり「電車で来て」ということだったので空港からパリ市内オペラまでロワシーバスに乗りました。

これが意外と便利でターミナルから出てすぐにバス停があり、迷う事無く乗ることができた。空港からだいたい50分ほどでオペラ前バス停に着きます。ここからサンラザールの駅まで徒歩で5分ほどでしょうか?この時、僕は正直テンパっていたので全く周りを見ること無くまっすぐ駅に向かいました。煙草を吸う余裕すらない!

どうにか駅にたどり着き切符を買おうとしましたが、駅は週末ということもあって人で溢れています。サン・ラザールからサン・ローまで2等を大人1人といったオーダーですが、とりあえず長蛇の列に並び機内で描いた絵とフランス語の文章でチャレンジ!

親切そうなおじさん駅員は理解してくれたようで切符を出してくれました。何とかなるもんだ!…っとよく見てみるとずいぶん値段が安い!?すぐに「これは間違った!」と気づき、又長蛇の列に並びました。今度は英語もOKの窓口へ行き、つたない英語で切符を変えてもらいました。今度こそ何とかなるもんだ!でも、この間に乗りたかった電車は出発してしまいました…。

藁の家 ストローベイルハウス 電車には乗り遅れてしまいましたが、どうにか夜の9時半頃には無事サン・ローの駅に着くことができました。駅にはフィリップさんと次男のトーマ、そして三男のジョイが出迎えてくれ、やっと一息つきました。

長男のクロウドは今夜街でライブに出るらしい…ちょうど街では音楽のフェスが開催されていて、街のいろんな会場で連日ライブがやっている様子。早速着いたその夜からみんなでライブに出掛けることになりました。ちょっと疲れてはいたけれど…。

写真は到着翌日の現場です。天井は半分貼ってあり、又周りの壁も腰までOSB Fermacellが貼ってあり、藁はもう見えなくなっていました。
11月2日
藁の家 ストローベイルハウス軒はこんな感じで出来ていました。軒に使ってある柱は森から選んで伐ってきた西洋栗(山栗になるのかな?)の皮を剥いただけで、枝の部分があったり曲がっていたり太さもバラバラ…でもこれがホントにいい感じだと思いました。

なんと言うか、確かに同じ太さで揃っていたり、きれいに削ってあるときれいですが、でもこの軒もきれいだと思いました。

この「きれい」という概念については今回の旅行で考えさせられたことのひとつです。丁度お茶の世界でいう「侘び寂び」かな。千利休や、岐阜では古田織部と云った所でしょうか?彼らは茶室の空間に意図的に自然を取り入れ、ひとつの様式・文化を生み出しました。現在の建築やデザインにもその考え方は受け継がれています。

藁の家 ストローベイルハウスただ、ここで僕が「いいな!」って思ったのは「森に行って、木を選び皮を捲って立てました」という、この何とも明快な答えがホントにいいと思ったんです。柱の下に据えた石もたぶんそこらにあったものでしょう。
11月7日
藁の家 ストローベイルハウスここノルマンディー地方はホントに晴れる日が少なく、雨か曇りの毎日です。久々に太陽と青空を見ると心底ありがたいと思うほどです。日本とは明らかに日差しの差し込み方が違い、光と陰のコントラストがとてもドラマチックで気持ちがいい…。空は青く雲は白くとても低く感じ、自分が立っている地面との距離感が不思議と空に近く感じます。

ここフランスに来てから空を見上げることが多いです。もちろん日本に居てもよく空を見上げるのですが、何時になく地面と空との間にある空間を意識させる時が多くなりました。近年の僕の制作のテーマでもある「ground=sky」…僕たちはこの限りある空間の中でしか生きることは出来ません。

僕が再びこの地に来ることを決意した動機のひとつには、「ここなら僕の心の奥にぐるぐると巡る思いを、よりシンプルに導き出すきっかけがある」と思ったからです。

おっと、自身のことはさておき写真の説明です。これは天井を貼り終えた様子。足場や仮筋交いなどを外しすっきりとさせました。こうすることで次の仕事やイメージがしやすいと考えたからです。あと、現場が汚いのはどうも嫌だから…。

藁の家 ストローベイルハウス藁の家 ストローベイルハウスちょうどこの日は、和室になる予定の部屋のサッシを取り付けに職人さんが2人来ていました。

この和室から眺める景色はとても気持ちがいいです。完成して畳が入ってここに転がったらきっといいだろうなぁ…などと思いが膨らみました。

家造りは外見や室内のデザイン、そして設備や機能性ももちろん重要ですが、外部(自然)との繋がりもとても大事なことだと思います。絶えず外との繋がりを意識しながら快適に過ごすことが出来る家が、きっとホントにいい家なんだろうと感じました。
11月11日
藁の家 ストローベイルハウス現在建築中のストロベイルハウスで使う為の電気はソーラー発電を利用するとのことで、以前から建っていた小屋を増築することになりました。この小屋の屋根にパネルを設置することになります。

突然の計画に最初は「えっ!マジっすか?」と言ってしまいましたが「まぁ、なんとかなるか〜」と返事をした所、フィリップさん家族にとって「なんとかなるか〜」は大変良い返事だったようで、その答えを待ってました!ぐらいのリアクションが返ってきました。

やる前から「そんなこと無理無理!」と言われて断念することが多い最近でしたが、「まずはやってみる!」…これが大事なことなんだなと思わせてくれました。この小屋の増築は、図面も無かったのである材料をうまく使い、既存の建物に習って建て始めました。

この間、ストローベイルハウスの方は二階の部屋割りのプランニングです。連日夕食の時に自室の陣取り合戦が父親と子供たちの間で繰り広げられていたのです。その仲裁に入るのはなかなか大変で…。日本語で話していると思えばやはり意見する時はフランス語ですし、僕は頭の中が混乱してしまい夢の中でもフランス語になってしまったのです。

この時は丁度イギリス人のマイクとケリーが滞在していたこともあり、日々のコミニュケーションが日本語とフランス語と英語になっていました。これは日本語しか話せない僕にとってはかなりきつかったですが、いい勉強というか短期集中の英語教室状態でした。

おかげでマイクとケリーが帰る頃には、英語で何となく受け答えと少しだけ自分の考えてることを伝えられるようになっていました。これには自分でも驚きです。語学学校や英会話教室で文法だのやってるよりも、つまり理屈よりも体で覚えた方が僕には良いように思えます。

そう!「僕は生まれたての赤ん坊だ」と自分に暗示をかけ、ひたすら彼らの会話を注意深く聞くことが大切で、そのうち口から勝手に言葉が出てくるだろうと考えれば、語学はさほど難しいことではありません。ただフランス語は発音がかなり難しいです…。

藁の家 ストローベイルハウスこの写真は長男クロウドの誕生パーティーの様子です。この日はオーベルジュの電気が切れてしまいロウソクで灯りをとったのですが、これがホントにいい感じでした。

食事の時間と灯りについては、ここに来て色々と考えさせられました。日本ではバタバタと終わらせる食事の時間、そして必要以上に明るくする室内…本当に必要なものっていったい何なんでしょうか?

…それにしてもこの日の夕食はホントに楽しかった。なんとメインは焼き鳥!串に刺して炭焼きです!僕は焼くだけ焼いてたらいつの間にか無くなっていました。おいしかったんだろうな〜。
11月15日
藁の家 ストローベイルハウス間仕切りを立て始めたのが11月の中旬を過ぎた頃…「これはけっこう厳しいぞ!」と思いながら作業を進めることにしました。使う材料は50mm×70mmのオサチュー(オサチューとはOSSATUREのことで、フランス語でツーバイフォーの柱を意味します。)がメインです。

オサチューは近所の建材屋で買ってきました。もちろん全て釘を手打ちです!インパクトが欲しくて欲しくてたまりませんでしたが、フランスではあまりインパクトが普及していないようで、どちらかというと電動ドリルドライバーが主流です。夏同様ひたすら打ちました!
藁の家 ストローベイルハウス藁の家 ストローベイルハウスここからは日々どれだけ進んだのか解らないほど淡々とした作業が続き、みんなしんどくなっていました。でも日々着実に進んでいると僕は確信していたのです。
藁の家 ストローベイルハウス藁の家 ストローベイルハウスそんなある日、玄関にドアーが付きました!職人さんが2人ほど来てごそごそやってましたよ。

無垢の木でできた重量感のある良いドアです!ガラスはペアガラスが入っていてドアノブなんかもお洒落でした。
11月29日
日にちが飛びましたが、進んだ感がここまでこないと出ませんでした。

藁の家 ストローベイルハウス藁の家 ストローベイルハウス下地も終わり、麻のボードをはめ込んでいきます。このボードは、使い古した手鋸で結構簡単に切ることができますが、切りクズが出るのでそれは隙間に押し込んでおきます。

隙間なくピッチリ入れていくことで防音効果はかなり期待できます。ここのところは晴れる日もなく雨ばかりが続きみんな元気がない様子…僕もあまり元気が出ませんでした。
藁の家 ストローベイルハウスあまり同じところばかりではと思い、1階の間仕切りを立て始めた頃です。ここは階段が付く場所で、奥がお風呂場になります。下地材にはスリーブを見せたい為30mm×50mmの角材で組んでいきましたが、階段が付くのにこれで良いのか僕は心配になりました。

大工の親方ダニエルに尋ねた所、「これで十分だ!」と言ったので「じゃいいか!」と作業を進めました。そんな言葉のやり取りが楽しくなってきました。夜寝る前にフランス語を調べておき、手帳に書いておいて次の日話してみる。発音が悪いと全く伝わりませんでしたが頑張りました!
12月7日
藁の家 ストローベイルハウス藁の家 ストローベイルハウス麻のウールの施工が終わりました。麻のウールは前に書いた大きなロールケーキ状の物で、麻の繊維を綿のように絡めてあり幅が60cm、厚みが5cmあります。後は好きな長さに切ってタッカーで止めていきます。

麻袋のようなゴワゴワとした質感で繊維もかなり固く、切る時はキッチンばさみでザクザクと切っていくのですが2回に分けて切らなければなりません。

カッターも有効ですが何かで圧縮しなければ上手く切ることはできませんでしたので、少し幅の広い材木をベースにし、その上に下地で使った50mm×70mmの角材を乗せ、端を片方だけ釘で止め簡易のプレス機を作り、そこに挟み込むことで圧縮しました。最初は手こずりましたが慣れれば楽に切ることができます。カッターの刃の消耗は激しいですが…。

ここでも、隙間なくピッチリと収めることが重要なポイントとなりました。厚さが70mmの壁に両側からボードを貼るので実際の壁厚は94mmほどです。中身がかなり充実しているので薄そうですが、音は通りません。

藁の家 ストローベイルハウス一階の和室から見た様子です。この日は久々の快晴でしたので、吹き抜けのリビングに差し込む光がかなり気持ちがいいです。窓の外を見るとブタが草を食べていたり、一度だけでしたが狐も歩いていました。

そんな風景が見られるリビング…完成したらここでみんなとコーヒーやショコラを楽しみたい!まだまだ完成にはほど遠い状態ですが、その工期の長さも完成後に過ごす楽しい時間がより良いものになる為のようです。

早くできることに越したことはありません。しかし、物を作る時間がゆったりとしていればいるほど、その物が持つ時間の流れ方もきっとゆったりと安心感のある物になってくるように思います。まぁ、これは理想で現実はそんなこと言ってられないですが…。

でも僕は、家を造るということは「造っていく時間も楽しむ」ことであって欲しいと思っています。家族が一生楽しく生活する為の空間なのですから…。これは僕が作品を制作する時に大切にしている考え方のひとつでもあります。
12月9日
藁の家 ストローベイルハウス下地や壁の中の作業も終わったので、いよいよボードを張り始めていきます。日曜ということで子供たちも総出で作業に取りかかりました。

素材は石の粉と紙を固めたFermacellというもので、サイズは1200mm×1000mm×12mmもあります。これ実はものすごく重くて、2枚重ねると1人で運ぶのは困難…1枚でもなんとか1人で汗をかきながらの作業で、腕と腰はパンパンに張ってしまいました。

そんな中、クロウド一人が張り切っています!写真はその様子。なぜ半袖になるのかは僕にもよくわからないくらい寒い日でしたが、がんばり屋の長男です!ほんとに頼もしい。

藁の家 ストローベイルハウスこの日は寒かったのでお昼はインスタントラーメンを作って4人でおいしくいただきました!かなり貴重な食材ですので、なんだか味も格別でした。

午後からも引き続きみんなで作業しましたが、今まで茶色だった壁がどんどん白くなっていくのでみんなのモチベーションも高まりました。結局この日は8時過ぎまで作業をし、みんなクタクタになりのんびり夕食です。
12月10日
藁の家 ストローベイルハウス藁の家 ストローベイルハウス2階の壁もようやく一段落しました。作業の合間を見てビスや継ぎ目にパテを盛っては削り平にしてゆきます。

この写真は天気の良い日の午前中に撮ったものですが、大きな窓から気持ちの良い光が差し込み、正面の白くて大きな壁にきれいな陰を落としています。まるで大きなスクリーンのよう…。

藁の家 ストローベイルハウス藁の家 ストローベイルハウスこれは壁に塗る塗料です。主材は石灰で、そこに水を混ぜつなぎにカゼインを入れます。カゼインとは乳製品に含まれるタンパク質ですが、この時は何故かたまごの黄身を混ぜました。

何だか不思議な塗料で、「腐って臭くならないかな?」とか心配になりましたが、とりあえず試しにということで作ってみました。

今回は色粉を混ぜ少し黄味がかった色調を目指し、スプーンに一杯と二杯そして三杯を準備…この色の粉も土から採った天然顔料です。

そこで気になるのが結果なのですが…残念なことに失敗!色は良かったのですが、全く定着せず水分だけがとび粉が残りました。たまごの黄身では弱かったようで、塗料の方はもう一度考え直すことになりました。でもこの塗料は水分を含んだり吐き出したりすることで微妙にテクスチャーが変化するそうです。

見てみたかった気がしますが、相当な面積で見ないとわからないと思います。正面の大きな白い壁なら見えるのかもしれませんね。
12月12日
今日はちょっと家造りをお休み。ここノルマンディー地方は林檎の産地ですので、特に林檎から造るお酒「シードル」や「カルバドス」は有名です。フィリップさんの所でも11月初旬から収穫を始め、本日シードルを仕込みました!

ここのシードルは独特のエグ味というかうまく言葉では表現できない旨味があり、僕は大好き!いつも呑んでました。何か調子が出ないなんて時はとりあえず一杯飲むと元気が出ます。そんなシードルが出来る行程を見ることが出来ました。

藁の家 ストローベイルハウス藁の家 ストローベイルハウス まずはみんなで林檎の収穫ですが、これ林檎の木なの?という、何とも野性味のある古木から林檎を落としてそれを拾います。落ちているものは全て拾います。その後、庭に1ヶ月ほど山積みにして置いてありました。

今日は快晴でしたがとても冷え込んでいました。お酒を仕込むには良い日だと思ったのですが、林檎まで凍ってしまいあまり良くないそうです…。

でも、僕はこの日に仕込んだシードルはきっと最高に美味いと心の中で確信してます。

藁の家 ストローベイルハウス藁の家 ストローベイルハウスどこからともなくやってきたトラクターにつながれてシードルマシンがやってきました。ここらではトラクターはかなり市民権を得ています。しかもでかい!高性能な上よく働きます。

その機械に林檎を放り込み、どんどんプレスして果汁だけを搾り取り、純粋なものだけが抽出され樽へと移されました。
藁の家 ストローベイルハウスそれにしても、洗わないし消毒もしないし「いいの?」なんて思いましたが、ここでは昔からこのやり方だそうで、これでいいそうです。「なるほど、大地の味がする訳だ!」ってこの時にわかりました。

良いものだけを穫ってキレイに洗って消毒して造るもの、とにかく穫れたものをそのまま搾って造るもの…本当のキレイで安心っていったいどっち?

又このシードルだけでも呑みに行きたいです。
12月16日
藁の家 ストローベイルハウス藁の家 ストローベイルハウス日曜の昼下がり。天気も良かったので、外部に立ててあった足場をばらすことにしました。

毎回のことですので解体や組み立ても手慣れたものです。一番上にクロウド、二段目にトーマ、一番下にジョイといった具合でばらしていくのですが、日本の現場で使う足場よりも約2倍ぐらいの大きさがあります。

幅もあり手すりも付いているので作業するには安心感がありますが、なんせ重い!

藁の家 ストローベイルハウス藁の家 ストローベイルハウス足場の解体後、家の中の吹き抜けに再度組み立てました。最後に吹き抜けの上に大きな壁をもうひとつ作らなければいけません。リビングからよく見える壁なので丁寧に仕上げておきたい所です。

この壁はフィリップさんの要望で、「柱を見せて中央に窓を設けて欲しい」とのオーダーでした。材料もある物をなんとか利用してやらなければいけないので、どうしたものかと何度もスケッチをしながらイメージを作っていきました。

ここに来た最初の日に、フィリップさんと「ここは重要な壁だ」と話していたことが思い出されてなんだか緊張気味に…。週明けから取りかかることにしてこの日は足場を組んで終わりにしました。
12月18日
外は相変わらずの寒さですが、意外にも天気の方は晴れる日が多くなってきました。壁を立てることにも少し慣れてきて、下地はさほど問題なく立てることができましたが、正面に出てくる柱は材料の都合で見かけだけのものになってしまいました。

まぁそれもよし!クリスマスまでには終わらせたいと考えていましたので、もうあまり考えている余裕は無くなってきました。この日を最後に途中経過の写真すら撮る間もなく、どんどん手を動かしていきました。

藁の家 ストローベイルハウスこの写真は次男のトーマが撮ったものです。西に沈む夕日がドラマチックによく撮れています。クリスマスも目前に迫ってきたので、街の様子は何となく慌ただしい年末の日本のよう…普段なら7時頃には閉まってしまうお店もこの時ばかりは遅くまで営業しています。

街はイルミネーションで彩られ、ブラブラ歩くのも楽しみのひとつとなりました。
藁の家 ストローベイルハウス小野さんが以前岐阜市内の公園にインスタレーションしたイルミネーションを思い出しながら写真を撮ってきました。寒い夜空の下で朝方まで二人で設置していた時に「フランスのイルミネーションはいいよ〜」などと話を聞いていましたが、その時は実際に見ることができるなんて思ってもいませんでした。

こちらは電灯の色が基本的に暖色が多いのと、少し古い感じの光り方がより暖かみを感じさせてくれます。空気も関係しているのかキンと冷えきって澄んだ冬の空気が周りの景色をよりクリアにしてくれているようにも見えました。
12月25日
藁の家 ストローベイルハウス藁の家 ストローベイルハウス昨夜はクリスマスということで、マミーのお家にフィリップさんのご家族が集まり深夜まで飲んでいました。

少し飲み過ぎたせいか起きたのはお昼近く…ずいぶんごちそうになりたくさん飲ませていただきました。メニューは生ガキに鳥の丸焼き等々でしたが、とても豪華でどれもおいしかったです。

とにかく家族で楽しむ食事はとても幸せを感じます。料理もゆっくりと出てくるせいか時間ものんびりしていて、落ち着いて話もできることがよけいにお酒を進めてしまいます。

部屋の隅にはみんなのクリスマスプレゼントが山のように積まれていて、一応子供たちの為のものがメインではありますが、大人にもちゃんと準備されていました。1人ずつ順番に取りにいき、それぞれのプレゼントを見ながら会話も盛り上がりました。

藁の家 ストローベイルハウス気になるお家の方ですが、無事に2階のドアまで終えることができホッとしました。木製のドアはドア枠とドアがキットになったもので、材質はパインの無垢材で出来ています。値段はだいたい40〜50ユーロだったと思いますが、シンプルできれいなドアでした。

長男のクロウドと2人で1日半かけて4つの部屋に1つずつ丁寧に取り付け、無事終了しました。最初の部屋は僕のミスもあり、なかなか上手く付かなくて2人でイライラしながらの作業でしたが、クロウドも真剣になりなんとか付いた時はとても嬉しそうでした。「もう付かないと思ってたけど、上手くいってよかった!」と満足げに話していた時の表情が印象的でした。

藁の家 ストローベイルハウスホントにこの家は、住む子供たちの手が至る所に入っているということが何より凄いと思います。

人は一生のうちに1軒の家を建てることができるかできないかだと思いますが、その貴重な1回を自らの手で作っていく…そんな青春時代を過ごす彼らと時間を共有できたことが何より僕は嬉しかったです。

僕がこの街に滞在するのもあと残り2日となりました。
12月26日
この日は子供たちとレンヌという街まで遊びに行ってきました。滞在していたサン・ローの街から高速を使って車で2時間ほどの所です。高速といっても料金がいる訳ではなく、速度も平均して110キロぐらいで走って行くので遠いのか近いのかよくわかりません。

街の規模は名古屋ぐらいで結構というかかなり栄えています。でも近代的な建物はなく、どこも古いヨーロッパ特有の建物の中にうまくリノベーションされていて、オシャレなショップが軒並み入っています。通りに面したウィンドウにはそれぞれのお店の個性でクリスマスのディスプレイが飾られていて、それを見て歩くのも楽しみのひとつでした。

藁の家 ストローベイルハウス藁の家 ストローベイルハウス写真は木造のビル?ですが、よく見なくても明らかに傾いています。横だけならまだしも手前にまで出ているのには驚きましたが、立体的で面白くもあります。

正直ここまでして残そうという動きというか、心意気には頭が下がりますね。構造の柱の見える真壁造りで、それぞれの柱の寸法もまちまちです。中には曲がっていたりと、色々な材料を混ぜて使っているのがとてもいい雰囲気になっています。

全ての物が整っているが良いかというとそうでもないんだなと改めて感じました。色々な物が合わさって、総合的に見た時にキレイというか面白いという見え方もひとつの作り方として良い方法だと思いました。

4人で出掛けた小旅行でしたが、街をブラブラ歩いたり、レストランでランチをしたり、カフェに入ってコーヒーを飲んだり…特別なことは何もなかったのですが楽しい時間となりました。明日はいよいよみんなとお別れです。
12月27日
藁の家 ストローベイルハウスいよいよサン・ローの街ともお別れです。お昼をみんなで食べ、街の駅まで見送ってくれました。

車中でなにか気の利いた言葉でもと考えたのですが、どうにも見つからず結局「じゃまたね〜」になってしまいました。電車に乗ってから、近い所でもないのに「またね〜」はいかがなものかと思いましたが、「じゃ!またね」と言える場所ができたという喜びがこみ上げました。

長いようであっという間の今回の旅は、7月に小野さんと近所のスーパーでばったり出会った所から始まりました。7月に行った時は四季の家工房の頼もしい仲間がいましたが、この2ヶ月は頼りない僕一人でした。良いことも大変なことも含め、とても良い時間をいただけたことを本当に感謝せずにはいられません。

ストローベイルハウスはこの第二期工事で2階部分と1階の主な間仕切りを終えることができました。まだまだ完成までには時間がかかりそうですが、フィリップさんも子供たちも少し疲れてしまったようで、続きは春からかな?とのこと…実際に住むことができるようになるのは多分来年の今頃だろうと思います。

家という空間は時に自然から身を守り、ひとつの家族の生活をやさしく包み込んでくれます。故に出来上がった時の喜びはとても大きなものになるのだと思います。計画から完成に至るまでこの家造りに関わった多くの人たちにとって、きっと忘れることのできないものになっていることでしょう。

今回のフランスレポートはここで一区切りとなります。まだまだ家造りの方は引き続き進んでいることと思いますので、内心「完成まで関われたら…」とも思いますが、簡単なことではないので「又いつか行けたらいいな」という気持ちだけ心に置いておくことにします。つたないレポートを最後まで読んでいただきありがとうございました。
後藤譲